三大忍術書『万川集海』『忍秘伝』『正忍記』は、江戸時代の忍者が自らの技術と精神を体系化した貴重な資料です。潜入・変装・火術などの実践技から、心を整える心得まで、現代の忍者像とは異なる“本物の忍者の知恵”が詰まっています。江戸時代、忍者たちは自分たちの技術・心得・歴史を後世に伝えるため、忍術書(忍びのマニュアル)を残しました。その中でも特に重要とされるのが、次の三つです。これらは、現代の忍者研究の基礎資料となっています。
- 万川集海(ばんせんしゅうかい)
- 忍秘伝(にんぴでん)
- 正忍記(しょうにんき)
万川集海(ばんせんしゅうかい)
延宝4年(1676)に藤林保武(伊賀流忍者)が伊賀流・甲賀流を中心に編纂した、さまざまな流派の忍術を集成した書物です。中国最古の兵法書『孫子』を多く引用し、忍者の重要性を理論づけられ、全22巻におよぶ最も分量が多い忍術百科事典のような忍術書で、忍者の技術だけでなく、心構え・道徳性(正心)まで説く総合書的な忍術書です。
忍秘伝(にんぴでん)
服部半蔵家の流れを重視した実践的な忍術書で、具体的な技法の説明が中心で、形式より実用性を重視した内容で、特徴として変装術・潜入術・火術など、現場で使う技が多く書かれて、現場の忍者が使う実用書”という性格が強い忍術書です。
正忍記(しょうにんき)
延宝9年(1681)に江戸時代 の 紀州藩の軍学者 名取正澄(なとり まさずみ)が著した忍術書です。甲州流軍学を背景に、忍者の心得・心理・行動原則を体系化され、忍者の精神面を重視した忍術書で、「忍び六具」「七方出(変装スタイル)」「心得」などが詳述されています。
忍術書に描かれる“本物の忍者像”
忍術書を読むと、エンタメ忍者とは異なる、リアルな忍者の姿が見えてきます。
忍者は「戦わずして勝つ」ことを重視
『孫子』の思想を取り入れ、戦わずに情報を得て状況を有利にすることが最重要。
忍者は“心”を鍛える
正心・冷静さ・自己管理が強調される。
忍者は日常の中で溶け込む
変装術(七方出)や忍び六具など、実用的な技術が多い。
呪符や印も登場するが、迷信ではなく“心理戦”の一環
相手の心を揺さぶるための技法として扱われる。
